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2020年11月23日月曜日

研究に関係する元素レビュー

東大CASTの 元素ガチャ 、楽しいですね。駒場祭開催中に機能が追加されてってるのすごい。

後輩がFleetで「研究に関係する元素紹介コーナー」をやってて面白そうだったので私もやってみまようと思います。

  • He
    とても大事な寒剤。ジャボ漬けするだけで4Kまで行けるうえ減圧するともっと冷える。他の寒剤は割とすぐに凍ってしまうのでこうは行かない。
    いつも枯渇しそうになっているので心配。大事なので駒場では回収してリサイクルされています。
  • N
    とても大事な寒剤その2。液化Heはただのデュワー瓶(魔法瓶)だけだとすぐ熱が伝わって蒸発してしまうので、さらに液化N2の中につける二重デュワー瓶にしている。ディフュージョンポンプの冷却材としても使ったりする。
    超伝導のデモ実験にも大活躍ですね。弊研究室ではYBCOは学生実験と対外デモでしか使いませんが。
    また不活化ガスとしてHeやN2が真空系のパージに使われたりもする。
  • C, H, O
    洗浄のためにエタノールやアセトンをよく使います。
  • F
    試料を作るのにすごく強いパルスレーザーが必要なのだが、その発振にFとKrの混合気体が使われている。気体交換でF2ボンベを使うときはかなり緊張する。
  • Ar
    酸化しやすかったり空気中の水分と反応しやすかったりする物質はArやN2で満たされたグローブボックスの中で扱います。
  • Fe
    私の研究のメイン、FeSeの主成分。超伝導は磁場により壊れるなど磁性とは相性が悪いと考えられていましたがFe系超伝導体というモロに磁性元素を含む超伝導体グループが発見されて大ニュースとなったとか。発見から12年経ちましたが今も高温超伝導の原理解明のため研究が続けられています。
  • S, Se, Te
    FeSeのもう一つの主成分。ヒ素を含んでいる他の鉄系超伝導体と比べると安全、ということになっていますが普通に体に悪い。
    周期表の上下ということでSeをSやTeに置換して構造に圧力を加えるなどの効果を導入した物を含めてFeCh(鉄カルコゲナイド)と括られています。
  • Cu
    銅線の導線って同じものを指してていながら違うことを意図していてややこしいですよね。
    鉄系と対をなす高温超伝導体のグループ「銅酸化物系」の中心元素。こっちのほうが総じて転移温度は高い。
  • Ag
    電気伝導率が最高。すごく細かい配線を繋ぐときによくペースト状のものを使う。
  • Au
    錆びない。配線によく使う。50μmや25μmの細線を顕微鏡を覗きながら銀ペーストでつないでいる。
  • Pt
    研究で電気化学反応も扱うのだが、その際の電極としてPt箔を用いる。値段の事は考えない。
  • In
    柔らかく、融点が低い。ハンダの成分として使われるが、ハンダだと超伝導転移して測定に影響がある場合があるためIn単体を融かして使うこともある。
  • Sn
    3.72Kで超伝導を示す。表面の酸化皮膜がジョセフソン接合(超伝導版トンネル効果。普通のトンネル効果よりも厚いスケールの障壁を超えられる他色々な応用例がある)を作るのに丁度いいためちょくちょく使う。
  • Y, Ba
    上記銅酸化物系超伝導体で一番メジャーな化合物YBCO(YBa2Cu3O7-x)の他の構成元素。混ぜて焼くだけで液化窒素温度で超伝導を示すのですごい。(混ぜて焼くだけと言うが混ぜるのが結構重労働である。)弊研究室ではデモ実験くらいでしか作らない。
  • Bi
    同じく銅酸化物系で有名なBSCCO(Bi2Sr2Ca2Cu3O10)はBi系とも呼ばれる。標準試料としてそこそこ測定に使われている。
  • Sr, Ti, Ca, La, Al
    薄膜試料を作るための基板としてSrTiO3, CaF2, LaAlO3などの結晶が使われる。

同じ元素でも人によって見方が違ったりするの、面白いですよね。

みなさんもガチャを回してお気に入りの元素を引いたり引けなかったりしましょう。

2020年11月17日火曜日

三角のプロットマーカーは何形か

Introduction

突然ですが、皆さんはグラフのプロットにはどのマーカーを使っていますか?

だいたいはデフォルトの○や□あたりで事足りると思いますが系列が増えてくると他の形のマーカーを使うことがあるかもしれません。

多くのグラフ描画ツールではオプションとして選べるマーカーの中に△も用意されています。


ところで三角形と言っても色々ありますよね。ぱっと見たところ正三角形っぽいですが果たしてそうなのでしょうか。

また、○や□ならその中心がデータ点だとわかりますが、三角形の中心はどこなのでしょうか。正三角形でないなら重心か垂心か外心か、はたまたそのどれでもない何か[1]なのか、色々と選択肢が出てきます。

本記事では各種グラフ描画ツールで△のマーカーが果たしてどんな形なのかを調べてみました。

グラフ描画ツールによる△マーカーの違い

Excelの場合

以下の図は正方形(青・枠のみ)のマーカーに三角形(オレンジ)のマーカーを重ねて描画したところです。


ご覧の通り、正方形に内接し、底辺の長さと高さが等しい二等辺三角形で、高さの2等分点が中心に位置していることがわかります。

Googleスプレッドシートの場合

一方、Googleスプレッドシートで同じように描画すると、異なった結果が得られます。



正方形とはぴったり重ならず、円にちょうど内接しています。

こちらの△のマーカーは正三角形で、中心は重心になっていることがわかりました。

その他

他のツールも調べてみましょう。

Excelパターン

  • Python matplotlib


Googleスプレッドシートパターン

  • MATLAB

    同じサイズを指定してプロットしています。
    大きさの関係はGoogleスプレッドシートと異なるものの、重心を中心とした正三角形であることがわかります。

  • Geogebra


  • Origin


また、LabVIEWでは三角形のマーカーはありませんでした。

まとめ

△型のプロットマーカーはおよそ2通りのパターンに分けられる事がわかりました[2]

Googleスプレッドシートパターンのほうがなんとなくそれらしい気がしますね。こっちだと下向き▽と重ねたときにいい感じに六芒星になるので私は好きです。

同じ場所に△、▽、大きさの違う3つの○をプロットしたところ

ただ、「中心」の決め方が2通りあることからわかるように、マーカーをおいたとき△だと真のプロット点がどこなのかはっきりしません[3]。実際には中心点に対し点対称な形のマーカーを使ったほうが良いでしょう。

次回は△のマーカーがどれくらい「ズレて」いるのかを検証してみたいと思います。




[1] 余談ですが、「三角形の中心」は2020/9/1現在 39474 種類も登録されている(Encyclopedia of Triangle Centers に登録されたもの。今見てきたら更に増えていた。)ほど多いです。

[2] なお、○と△のマーカーで同じサイズを指定しても大きさの関係がそれぞれ違うのもまた興味深いですね。

[3] 「高さの半分」と「重心」とでは高さの1/6だけ位置にずれが生じます。

2020年11月1日日曜日

「クローバー」の正体

クローバー - 植物の一属・シャジクソウ属の総称。一般的にはシロツメクサを指す。 ― Wikipedia「クローバー」 

 クローバーは日常の中でもそれなりに身近な植物であろう。3つ、または4つの葉を持ち、特に4つ葉のものはその希少性から幸福の象徴としてよく図案などでモチーフとされる。

"クローバー イラスト"でのGoogle検索結果

身体障害者用標識の図案も「四葉マーク」「クローバーマーク」などと呼ばれたりする。

Wikipedia「身体障害者用標識」より

先日実家からの仕送りに使われたダンボールにも"4つ葉"のマークが使われていた。

世田谷自然食品 [1] のダンボール

ところで「クローバー」の和名はシロツメクサである。緩衝材として詰め物にされていたことと小さく白い花がその名の由来である。そのへんの道草にポンポン生えている身近な植物である。

Wikipedia「シロツメクサ」より
この植物をよく見てみると上に挙げた「クローバー」のイラストとは葉の形がまるで違うとこがわかる。3つ葉か4つ葉かはさておき、イラストでは殆どがハート型の葉が書かれるが「本物」は先端が丸まった涙滴型である。
一方、イラストに描かれるハート型の葉を持つ植物も結構そのへんに生えている。先日大学の建物の脇にも繁殖していた。

大学に繁茂していたクローバー(偽)
筆者は小学校の時分は「シロツメクサ」と「クローバー」は別モノであって、クローバーはこのハート型の葉の植物を指すのだと思いこんでいた。明らかに巷のイラストとシロツメクサとは特徴が異なっていたから無理もないね。
しかしWikipediaでも明確にクローバーとはシロツメクサ(を始めとするシャクジソウ属)を指すと言っている。ならばこのクローバー(偽)は何物なのか。

結論を言えばこいつはカタバミである。あ~名前は聞いたことある、それがこれだったのか、とググって納得した。
調べようと思えば一瞬でわかることなのでご存知の方も多いかもしれない [2]。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。クローバーもカタバミもだいたい外を歩いているときに見かけるのでなかなか調べる機会がなかったんですよね。


 さて、シロツメクサは マメ目マメ科マメ亜科シャジクソウ属であるのに対しカタバミはカタバミ目カタバミ科カタバミ属とかなり別物である。なぜこれだけ混同されているのだろうか。少し考えてみたい。

1つはアイルランドなどでの「シャムロック」という語の存在である。これももともとはクローバーを指す言葉だったのが、キリスト教の三位一体の概念と結びつき3つ葉の草全般を指して信仰の象徴とされているようである。

もう1つはカタバミの「幸運の象徴たる4つ葉のクローバー」という概念における都合の良さである。カタバミも突然変異により4つ葉の個体を生ずることがあるし、ハート型の葉の形から本家クローバーよりも幸運感マシマシである。
さらにカタバミの近縁種にモンカタバミ [3]というものがあり、これは種として4つ葉であることから観賞用に4つ葉のクローバーの代替品種として販売されている。確定で出るのは強い。希少価値もなにもあったものではなくなってしまうけど。

Wikipedia「モンカタバミ」より

 ブログのネタ埋めのために[4]最近続けて見かけて気になっていた「クローバー」の正体について書いてみた。検索して出てきたクローバーのイラストが予想以上に右も左もハート型だったのでみんな間違ってんじゃんとちょっと安心したけれど、カタバミもかわいいので私は好きです。