ご無沙汰しています.前回ブログを書いてからいつのまにか丸一年も経ってしまいました.
表題の通り,2024年3月に博士課程を修了したことを記念して博士課程を振り返っていきたいと思います.
なぜ9ヶ月も経ってからこんな話をしているのかというと,今月になって(本当は博士課程のうちに出しておくべきだった)論文 が出版され,ようやく区切りがついたからです.
……というのはウソで,シンプルに筆不精で書くのを忘れていたのを年末休みになってやっと思い出したからです.
さて,博士課程についていくつかに分けて振り返っていくのでお付き合いください.
個人的には博士課程に満足している(があまり人には勧められない)という話と,博士卒でアカデミアに進まないパターンの道についての話です.
博士進学について
以前 にも書きましたが,私が博士課程に進学したのは修士課程が消化不良だったからという若干後ろ向きな理由でした.
こんなナメた12学生を受け入れてくれた指導教員のH先生には感謝してもしきれません.
当時は先のことを何も考えていなかったので資金の当ても立てていなかったし,学振DC申請も出していなかったので,たまたまSPRING-GXで研究奨励金を貰っていなかったら3年間,精神的に保ったかどうか怪しいです.
研究に関しては好きなことをやっていられたので修士と比べてむしろ気が楽でしたが,同期のほとんどは既に社会で活躍しているという事実は如何ともしがたいところがありました.修士の分の蓄積が無い分,3年で終われる自信がなかったこともあります3.
奨励金(とRA)で一応生活できるだけのお金を貰っていることを拠り所に一端の研究者のつもりになることでなんとか心を保っていました.
行き当たりばったりが偶然生き残っただけなので,私の経験からは博士進学を人に積極的に勧められないところがあります.
研究内容について
私の博士論文の主題はベイズ統計によって物性研究を効率化するというものですが,なぜこんなにふんわりしているかというと2つの研究を後付けでがっちゃんこしているからです.
当初やっていた研究は,修士時代にやっていた実験データ解析に統計力学が由来の最適化手法を適用して,合理的でバイアスのない推定を実現させるというものでした.
これだけだと博士の研究としてボリュームが足りないということと,途中でH先生に共同研究を繋いでいただいて始めたマテリアルズ・インフォマティクスの研究が面白くなってしまったため,手法もターゲットもかなり開きがある2つのテーマに共通点を設定してなんとか一本にまとめたという感じです.
毎度計画性が無くてびっくりしますね.修士からもガラッと内容を変えているので3年で本当に終わるかどうかと言っているクセに緊張感が感じられません.
ただ,色々と手広くやることが出来て自分は楽しかったので結果的には満足しています
就職活動
研究は苦ではなかったと言っている割に結局私は一般企業に就職しました.
理由はアカデミアでの(狭義の)研究以外の活動が苦だったからです.
以前から薄々察してはいたのですが,決定打は学振PDの申請書を書いた3年目の春のことでした.
私は確定事実ベースではない予定の話を(しかも自分で)良いように書くことや知らない人と定型のない交渉をすることがものすごく苦手なんですね.
PDでは(DCと比べ)特に研究室外の受け入れ先を探さないといけないのでまさに一番嫌いなことをする必要があり,この期間,研究の進捗は本気でゼロでした.
アカデミアでは定期的にこれを繰り返さないといけないという事実,それと比べて就活はものすごくあっさり進んでしまったこと4によって完全に心が折れました.
また,マネジメント能力も壊滅的なので,将来学生を受け持って指導できる自信が全く無いという問題もあります.
PD申請でも色々とお世話いただいたH先生に対しては非常に心苦しかったのですが,無事(?)学振にも落ち5踏ん切りがついたのでその後のアカデミア就活は諦め,内定を貰っていた現職に進むことを決めました.
卒業後の研究活動
アカデミアでの就職を諦めたとはいえ,研究活動自体は好きなので日曜研究として続けるつもりでいました.
特に博士後半でやっていたマテリアルズ・インフォマティクスの研究はプログラムをパッケージ化して一般利用できるようにするところまでがゴールと考えていたので,その点で全く完成しておらず色々とやるべきこと・やりたいことがありました.
たまたま御縁があり6共同研究先にリモートのパートタイム勤務で採用していただき,給料をもらいながら研究開発を続けられています7.
また,これは嬉しい誤算8ですが,本業でもかなり研究寄りの業務を担当させてもらっており,業務で論文を読んだり直接プロダクトにならない開発をやらせてもらったりしています.
実績のない新人をこれだけ自由にさせてもらっているのは東大博士の肩書きによって信用を上積みされているのが感じられ,博士号様々です.(流石にいつまでも結果を出さなければバフもいずれ切れるだろうのでプレッシャーはありますが.)
総じて,博士課程の最中も,修了後の今もやりたいことがやれており,楽しくやっています.
機械学習研究の実績や共同研究の縁は修士卒時点では無かったものなので,博士進学はプラスになったと言えると思います.
ただ,このプラス要素って全部偶然要素が強いんですよね.
副業ができたのは色々と条件が噛み合ったから9ですし,ここまで経歴を買ってくれる現場かどうかって就活時点ではなかなかわからないので.
人生万事塞翁が馬とはいいますが,博士の経験を一般企業でも活かせる"分"がもっと良くなっていくといいなと思います.
動機も動機だし修論の出来はカスだしその内容からも全然違うことをやりたいと言ってるし面談はすっぽかしてくるどう見てもヤバい奴でした ↩︎
そういえばちゃんとネット上で言及していなかった気がしますが,博士進学の入試面談の日程を覚え間違えていてすっぽかすという大ポカをやらかしています ↩︎
4年はかかってもしょうがないつもりでいたので,収入の1/4を貯金して4年目は貯金だけで生きていける計画でした.お陰で住環境が犠牲になりました. ↩︎
自分で言うのもなんですが(これは第三者から確認できる事実なので言えるんですが)東大博士卒でプログラミングがそれなりにできて機械学習の経験がある人間なので,企業の求めるところを汲めれば(今のところ)そうそう食いっぱぐれないと思います. ↩︎
自分でもこんなのが通るわけ無いという申請書の出来だったので実はその前に内定承諾してしまっていたのですが. ↩︎
ちょうど今年後からこの形式の勤務が可能になり,これがなければかなり厳しいところでした ↩︎
おかげで入社と同時に副業申請を出すナメクサった新卒が爆誕しました ↩︎
一般企業の研究専業でないエンジニア職なんてどうせ定型業務ばかりで直接「役立つ」こと以外やらせてくれないものだと思っていたので,程々に生活費を稼いで研究欲は休日に満たすくらいの心持ちでいました ↩︎
そもそも就活のときは副業可能かどうかもあまりちゃんと確認していませんでした ↩︎